課題制作と実案件は何が違うのか|未経験がつまずく点
デザインの勉強を始めて数ヶ月経つと、多くの方が同じところで足踏みします。教材の課題はひととおり作れるようになった。でも求人票には「実務経験」と書いてある。この差はいったい何なのか、というところです。
結論から書きます。課題制作は「自分が良いと思うものを作る」作業で、実案件は「相手の目的を満たすものを作る」作業です。使うソフトも作業内容も似ていますが、正解の置き場所が違います。だから課題をいくら積んでも実務経験にはならないと言われるわけです。
この記事では、その差が表れる工程を、ヒアリング・素材・修正・締切・公開後の5つに分けて書きます。未経験の方が実案件でつまずくのは、デザインの技術ではなくこの5つのほうです。最後に、課題作品と実案件がポートフォリオでどう違う見られ方をするかまで触れます。
違いは技術ではなく「誰の正解に合わせるか」
課題制作には、あらかじめ答えの条件が渡されています。「架空のカフェのLPを作りましょう」という課題には、ターゲットもコンセプトも、たいてい文章で書いてあります。書いていない部分は自分で決めていい。決めたことを否定する人もいません。
実案件では、その条件を渡してくれる人がいません。正確に言えば、条件は相手の頭の中にありますが、言語化されていません。こちらが引き出さないと出てこない。そして出てきた条件は、自分の好みとは無関係に守らなければいけません。
工程1|要件は渡されない。聞き出すもの
実案件の一番最初の作業はヒアリングです。ここが課題制作には存在しない工程です。
難しいのは、相手が「かっこいい感じで」「いい感じにお願いします」としか言えないことが普通だという点です。相手は伝え方の専門家ではないので当然です。こちらの仕事は、その言葉の裏にある目的を質問で確定させることです。
最低限、次のことは聞かないと作り始められません。
- これを見た人に、何をしてほしいのか(申し込み・来店・認知・問い合わせ)
- 誰が見るのか。年齢層や、その人がどんな状況でこれを見るのか
- 絶対に外せない要素は何か(ロゴ・法定表記・既存の色)
- いつ、どこに、どんなサイズで出るのか
- 誰が最終的にOKを出すのか
最後の項目を聞き忘れると、完成間際に決裁者から全面的な差し戻しが来ます。未経験の方が最初に食らう事故はだいたいこれです。
工程2|素材は揃わない前提で組み立てる
課題制作では、写真もロゴもテキストも用意されています。素材が揃った状態からレイアウトを始められます。
実案件でこれが揃っていることは、まずありません。写真は解像度が足りない、ロゴはJPGしかない、原稿は当日まで確定しない。看板や冊子のように印刷が絡むと、解像度と色の指定でさらに条件が増えます。
だから実務では、素材が来る前に前に進める設計が必要になります。文字量が変わっても崩れないレイアウトにしておく、写真の縦横比が変わっても収まる枠にしておく、といった作り方です。この「変更に耐える作り方」は、素材が最初から揃っている課題では身につきません。
工程3|修正は好みではなく目的で戻ってくる
課題のフィードバックは「もう少し余白を取るときれいです」といった、作品としての完成度についての指摘が中心です。指摘を受け入れるかどうかも、最終的には自分で決められます。
実案件の修正は理由の種類が違います。「この文言は社内規定で使えない」「この写真は使用許諾の範囲外」「この色は自治体の配色ルールに合わない」「高齢の方が読むので文字を大きく」。デザインの良し悪しの話ではなく、目的や制約の話です。
ここで未経験の方がやりがちなのは、自分の作ったものを否定されたと感じて固まってしまうことです。実際には人格の話でも技術の話でもなく、条件の話です。修正指示を「情報の追加」として受け取れるようになると、実案件は一気に進めやすくなります。
逆に、言われたとおりに直すだけでも足りません。「文字を大きく」と言われたときに必要なのは可読性であって、文字サイズはその手段のひとつです。
工程4|締切が動かない。公開後も終わらない
課題の締切は、極端に言えば動かせます。1週間遅れて提出しても、困るのは自分だけです。
実案件の締切は、その先に別の予定がぶら下がっています。印刷所の入稿日、イベントの開催日、プレスリリースの配信日。1日遅れると印刷が間に合わず、当日に配るものがない、という連鎖が起きます。だからスケジュールは「作業にかかる日数」ではなく「間に合わせるための逆算」で組みます。
そしてもうひとつ、課題にない要素があります。公開後です。Webサイトなら公開してからが運用の始まりで、更新・修正・保守を誰が担当するかを決めておく必要があります。SNS運用のように、公開後こそが本体という仕事もあります。「作って終わり」という前提が実案件にはありません。
課題だけで十分な人
ここまで実案件の話を書きましたが、全員が実案件を経験する必要はないと考えています。次のような方は、課題制作をしっかり積むほうが近道です。
- まだ基礎の途中の方。ツールの操作やレイアウトの基本が固まっていない段階で実案件に入ると、締切と修正対応に追われて学ぶ時間がなくなります
- 自分の仕事の中で使えれば十分な方。社内の資料やチラシ、自社のSNS画像を自分で作りたいという目的なら、発注者はいませんし、課題で身につく力で足ります
- 作品性を出したい方。イラストや作家性のある表現を軸にしたい場合、他人の目的に合わせる訓練より、自分の表現を掘るほうが直接的です
- いま生活の余白がない方。実案件は相手の都合で動きます。急な差し戻しに対応できる時間がない時期は、無理に入らないほうがいいです
実案件は「早くやったほうが偉い」ものではありません。基礎がない状態で入っても、得られるのは疲労だけになります。
千葉の実案件では、この5工程がそのまま出てくる
デジタルハリウッドSTUDIO千葉では、受講生が在学中に実際の案件に参加できるようにしています。練習用の課題ではなく、クライアントに納品する制作物です。
2025年度に取り組んだものだと、千葉都市モノレール株式会社の公式Webサイト「空中さんぽマップ」(2025年10月公開)、千葉県香取市の名刺デザイン、千葉県長南町の地域情報サイト、VONDS市原FCのスターティングメンバー紹介動画、茨城県河内町の観光冊子・看板・商品ラベルなどがあります。2026年4月からは蓮沼ウォーターガーデンのSNS運用にも関わっています。案件の一覧はクライアントワーク実績のページにまとめています。
並べてみると分かりますが、Web・グラフィック・動画・SNS運用と領域はばらばらです。ただ、どの案件でもここまで書いた5工程は同じように出てきます。相手の目的を聞き、揃わない素材で組み立て、目的にもとづく修正を受け、動かせない日付に合わせ、公開後の運用まで見る。この流れを現役のプロ講師と一緒に一度通せるかどうかが、独学との差になります。
コースとしてはWebデザイナー専攻(6ヶ月・572,000円税込)が中心で、チラシや看板といった印刷物を扱いたい方はグラフィックデザイン講座(4ヶ月)という選び方もあります。千葉市での学び方の選択肢を先に整理したい方は、千葉市でWebデザインを学ぶ3つの道もあわせてご覧ください。
受講料は、給付金で最大80%が戻る場合があります
デジタルハリウッドの一部の講座は、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)」に認定されています。支給要件を満たして所定の手続きをし、講座を修了すると、厚生労働省の専門実践教育訓練給付金として教育訓練経費の最大80%(上限640,000円)が支給されます。
| 対象コース | 定価(税込) | 実質料金(最大80%の給付を受けた場合) |
|---|---|---|
| Webデザイナー専攻 | 572,000円 | 220,000円 |
| Webデザイナー専攻 主婦・ママクラス キャリアデザインプログラム | 423,500円 | 190,300円 |
| 動画クリエイター専攻 | 445,500円 | 181,500円 |
| グラフィックデザイン講座 | 319,000円 | 143,000円 |
⚠ 動画ディレクター専攻と Claude Code × Designer Bootcamp は、この制度の対象ではありません。給付の対象になるのは入学金と授業料で、設備・教材費やソフトウェアの購入費は含まれません。また、雇用保険の被保険者である(あった)ことなどの支給要件があり、受講開始の2週間前までにハローワークでの手続きが必要です。ご自身が対象になるかは、住民票のある地域を管轄するハローワークで必ず確認してください。対象講座・支給要件・申請の流れはReスキル講座と給付金のページにまとめています。
ポートフォリオでは、課題作品と実案件は見られ方が違う
採用側の視点で見ると、課題作品と実案件は同じ「制作物」ではありません。見ている場所が違います。
| 見られる点 | 課題作品 | 実案件 |
|---|---|---|
| 主な評価対象 | ビジュアルの完成度・センス | 目的に対する判断の妥当性 |
| 前提条件 | 自分で設定したもの | 相手から与えられた制約 |
| 質問されること | なぜこの表現にしたか | なぜこの制約下でこう解いたか |
| 制約の存在 | 基本的にない | 予算・締切・許諾・既存ルール |
ここで大事なのは、実案件を1本載せれば通るという話ではないことです。実案件を載せても「関わった」としか書かれていなければ、判断の跡が見えないので課題作品と同じ扱いになります。逆に課題作品でも、条件を自分で設定した理由と、その条件にどう答えたかが書いてあれば、実案件に近い読まれ方をします。
つまり見られているのは案件の格ではなく、目的から逆算して判断した形跡です。ポートフォリオに載せるときは、完成物の画像より先に「何を求められて、何を選び、何を捨てたか」を1〜2行で書いてください。
まとめ|実務経験の正体は、判断の経験
課題制作と実案件の違いを、あらためて整理します。
- 要件は渡されず、質問で引き出す。決裁者を最初に確認する
- 素材は揃わない。変更に耐える作り方をする
- 修正は好みではなく目的で来る。手段ではなく目的に戻って考える
- 締切は動かない。逆算でスケジュールを組む
- 公開後の運用まで含めて設計する
求人票の「実務経験」が指しているのは、ソフトが使えることではなく、この5つの状況で判断した経験のことです。そしてこれは、課題を10本増やしても身につかない種類の経験です。
自分がいまどの段階にいるのか、実案件に入る時期なのか基礎を固める時期なのかは、一人で判断しにくいところだと思います。無料の個別カウンセリングでは、これまで作ったものがあれば見せていただきながら、その話からしています。所要1.5〜2時間、来校でもオンラインでも構いません。時間が取れない方向けに30分のカジュアル説明会もあります。
